COLUMN
コラム
2025/07/07
韓国発「マムズタッチ」が示すグローバルFC戦略の新潮流〜日本市場攻略の実態分析
CONTENTS
「ツートラック戦略」と現場密着型支援で見せる海外ブランドの本気度
2025年6月30日、韓国最大手バーガーチェーン「マムズタッチ」が日本でのフランチャイズ加盟1号店契約を締結しました。パートナーとなったのは、150年以上の歴史を持つ老舗企業・株式会社カギサン。この提携が示すのは、単なる海外ブランドの日本進出を超えた、新しいフランチャイズ展開戦略の実像です。
この動きから見えてくるのは、従来の「本部主導型」から「現場密着型」への転換、そしてグローバル化時代のフランチャイズ本部構築のあり方です。
マムズタッチの実績と戦略
韓国での圧倒的な存在感
基本データ(2025年4月時点):
- 店舗数: 1,455店舗(韓国バーガーチェーン店舗数第1位)
- 成長実績: 2021年春に韓国国内バーガーチェーン店舗数No.1を達成
- 事業歴: 1997年創業、2004年設立
成功の要因:
- コスパ重視戦略:品質と価格のバランス最適化
- 店内調理方式:品質管理の徹底
- “神コスパ”ブランド戦略:手頃な価格でボリューム感のある商品設計
日本進出1年目の実績
2024年4月〜2025年3月の公式発表データ:
- 累計来店者数: 70万人
- 売上実績: 5億円
- 1日平均来店数: 約1,900人
- 店舗数: 直営3店舗(渋谷、原宿、新宿)
この実績は、東京・渋谷という競争激化地域での成功を示しており、日本市場での受容性の高さを証明しています。
「ツートラック戦略」の詳細分析
商業圏と生活圏の二正面作戦
マムズタッチが掲げる「ツートラック戦略」は、フランチャイズ展開の新しいアプローチとして注目されています。
Track 1:商業圏戦略
ターゲット: 観光客・若年層・韓流ファン 立地特性: 駅前・繁華街・観光地 メニュー特徴: 韓国らしさを前面に出した商品 マーケティング: SNS映え・韓流コンテンツとの連携
Track 2:生活圏戦略
ターゲット: 地域住民・ファミリー層 立地特性: 住宅地・郊外・ショッピングモール メニュー特徴: 日本人の味覚に適応したローカライズ商品 マーケティング: 地域密着型プロモーション
現場密着型支援体制
従来のフランチャイズ本部が陥りがちな「画一的な本部教育」ではなく、個店の特性に応じた柔軟なサポートを実現
具体的支援内容:
- LSM分析:Local Store Marketing データによる個店最適化
- メニューローカライズ:地域の嗜好に応じたカスタマイズ
- プロモーション設計:商圏特性を反映したマーケティング
- デジタル活用:セルフオーダーキオスク等の導入支援
老舗企業カギサンとの提携戦略
150年企業を選んだ理由
カギサンの企業特性(公式発表データ):
- 創業: 1869年(明治2年)
- 飲食事業歴: 他社ハンバーガー業態45年間運営の実績
- 強み: 地域密着経営のノウハウ
- 立地: 茅ヶ崎の商業施設「BLiX茅ヶ崎」運営
提携の戦略的意味:
- 地域信頼性の獲得:150年の実績による地域での信頼
- 運営ノウハウの活用:既存の飲食店運営経験
- リスク軽減:実績ある企業との連携による安定性
加盟店選定の新基準
マムズタッチの加盟店選定プロセスは、従来のフランチャイズ化とは異なる特徴を示しています:
従来型の選定基準:
- 資金力重視
- 業界経験の有無
- 地域性への配慮は限定的
マムズタッチ型の選定基準:
- 企業理念の共感度:挑戦する姿勢とブランドへの理解
- 地域適応力:地域特性を理解した運営能力
- 長期的パートナーシップ:単なる収益追求を超えた関係性
2025年の拡大計画と業界への示唆
具体的な数値目標(公式発表)
2025年内の目標:
- 新規出店: 10店舗
- FC契約締結: 30店舗
- 展開方式: 直営とフランチャイズのハイブリッド方式
地域展開戦略:
- 第1四半期: 東京都心部(原宿、新宿、池袋)
- 第2四半期以降: 首都圏郊外・地方中核都市
- 2025年から: 住宅地、学生街、ベッドタウンへの展開強化
従来のFC展開との差異化ポイント
1. 本部構築の柔軟性
従来型:
- 統一マニュアルによる画一的運営
- 本部からの一方向的指導
- 標準化を最優先
マムズタッチ型:
- 個店特性に応じたカスタマイズ
- 双方向のコミュニケーション
- 地域適応を重視した柔軟性
2. 人材育成アプローチ
従来型の本部教育:
- 集合研修中心
- 理論的知識の習得重視
- 短期間での戦力化を目指す
マムズタッチ型の本部育成:
- 現場密着型の実践教育
- 継続的なスキルアップ支援
- 長期的な関係構築を前提
3. テクノロジー活用戦略
注目すべきデジタル施策:
- AIを活用した需要予測:季節・天候・イベント等を考慮
- 顧客データ分析:リピート率向上と顧客単価アップ
- モバイルオーダリング:待ち時間短縮と効率化
日本のフランチャイズ業界への影響
海外ブランド進出の新パターン
従来の海外FC進出:
- 直営店での市場テスト
- 成功後に大手企業との提携
- 急速な全国展開
マムズタッチ型の進出:
- 十分な市場適応期間の確保(1年間の検証期間)
- 地域特性を理解したパートナー選定
- 持続可能な成長を重視した展開
国内フランチャイザーへの示唆
学ぶべきポイント:
1. 地域適応戦略の重要性
- 全国一律ではなく、地域特性を活かした運営
- ローカライゼーションとスタンダード化のバランス
2. パートナーシップの質的向上
- 短期的な収益よりも長期的な関係性を重視
- 加盟店の成功を最優先とする姿勢
3. デジタル化への取り組み
- 単なるシステム導入ではなく、顧客体験向上を目的とした活用
- データドリブンな意思決定プロセスの確立
市場環境の変化と対応策
2025年の外食市場トレンド
消費者ニーズの変化:
- コスパ志向の継続:価格と品質のバランス重視
- 体験価値の追求:単なる食事を超えた付加価値
- 健康志向の高まり:栄養バランスへの関心増加
競合環境の変化:
- 既存大手チェーンの業態変革
- 新興ブランドの台頭
- 価格競争の激化
成功のための要件
フランチャイズ本部が重視すべき要素:
1. 差別化戦略の明確化
- 独自性のある商品・サービス
- ターゲット顧客の明確な設定
- 競合との差別化ポイントの言語化
2. 運営支援体制の充実
- 本部教育プログラムの継続的改善
- 現場の課題に対する迅速な対応
- 成功事例の水平展開システム
3. 持続可能な収益モデル
- 加盟店とのWin-Winの関係構築
- 長期的な視点での事業計画
- 市場変化への適応力
まとめ:グローバル化時代のFC戦略
マムズタッチの日本進出戦略から見えてくるのは、グローバル化時代におけるフランチャイズ展開の新しいあり方です。
重要なポイント:
✅ 地域適応と標準化のバランス:グローバルブランドでも地域特性への配慮が不可欠
✅ パートナーシップの質的転換:契約関係を超えた長期的な協力関係の構築
✅ テクノロジーの戦略的活用:効率化だけでなく顧客体験向上を目的とした導入
✅ 持続可能な成長モデル:短期的な拡大よりも質の高い店舗展開の重視
フランチャイズ展開を検討する企業にとって、マムズタッチの事例は多くの示唆を含んでいます。特に、「現場密着型」の支援体制と「ツートラック戦略」は、従来の画一的なFC展開とは一線を画すアプローチとして注目に値します。
今後、日本のフランチャイズ業界においても、このような質の高いパートナーシップと地域適応力を重視した展開モデルが主流となっていく可能性が高いでしょう。